魚津市 富山大学

魚津三太郎塾  事業レポート

 

コミュニティビジネス育成起業化論①

平成27年 7月17日
9日目第13限  コミュニティビジネス育成起業化論① 秋津野の生きる道
講師:紀州原農園七代目
   農業法人株式会社きてら代表取締役専務 原拓生氏
   田辺市企画部 たなべ営業室      鍋屋安則氏

和歌山県田辺市上秋津地区の地域づくりの現在までの取り組みや現状について説明。コミュニティビジネスとして運営している「秋津野ガルテン」や「秋津野直売所きてら」等により多くの交流人口や地元雇用,10億円に及ぶ経済波及効果を地元にもたらしている仕組みや背景について説明を受けた。

コミュニティビジネス育成起業化論①

初めに同地区の地理と歴史を紹介。旧上秋津村は,明治22年の大水害で甚大な被害を受け,復興のため,山を開墾して柑橘が植えられたのが現在への出発点。昭和32年の昭和の大合併で田辺市となる際に村有財産を管理運営する社団法人上秋津愛郷会を設立し,教育振興・住民福祉・環境保全への活用する地域の自主財源を持ち,同地区の村づくりのスタートとなったと紹介。

戦後ミカン栽培が中心であったが昭和47年のミカン価格大暴落を機に多種多様な品種の柑橘栽培と水田転換による梅栽培の複合経営となっていることや,多品種の柑橘果実が近隣の観光地・南紀白浜のお土産としての需要があったことなど同地区の農業の状況について説明。また,昭和の終わりごろから宅地化が進んだことにより地区の人口が急増し,臭いなど農作業に関わるトラブルや新旧住民との壁ができるなどの地域課題が生じ,解決のため平成6年に地域内にある主団体・組織が参加し地域づくりを協議する「秋津野塾」を設立。

各組織・団体で話し合い議論を尽くし相互理解を図ることで地域の分断を阻止し,住民全体でイベントを多数開催するなど地域住民の意識と地域力を高めていく成果をあげ,平成8年の豊かなむらづくり全国表彰事業で天皇杯を受賞したと説明。活動での自信がついたと同時にボランティア活動への疲れがでて,持続するには経済的成功も必要と考え,平成11年に秋津野直売所「きてら」をオープン。オープン当初の苦労話や半年で訪れた倒産の危機を特産物詰め合わせセット販売で脱出したエピソードを話し,経営の自信がもてるようになってから出荷量も増え売上げも年々伸び,平成15年には現在の場所へ新築移転。出資者・応援団を増やし,農産物加工場を併設,加工施設では女性の加工グループが続々誕生した。

16年には自分たちの地域のモノだけで作りたいとの思いからミカンジュース工場を設立。人気商品となり,平成23年に新ジュース工場を建設した。地域の中で特色ある地域のモノにこだわる直売所は平成24年には1億5千万円を売り上げるほどに成長したと話した。また,小学校の移転新築に伴う旧校舎活用検討を秋津野塾でおこない、秋津野型グリーンツーリズム事業を計画。「きてら」と同様に住民出資型株式会社として設立した「株式会社秋津野」を運営主体とした都市と農村地域の交流を楽しむための体験型グリーンツーリズム施設「秋津野ガルテン」を平成20年11月オープン。地域の人が提供する農家レストラン『みかん畑』,手づくりスイーツ工房『バレンシア畑』,宿泊施設,秋津野みかん教室「からたち」市民農園,みかんの樹オーナー制度など施設や取り組みを紹介した。

コミュニティビジネスは「地域づくり」から地域の価値を生かす「ビジネス」の視点を持ち取り組むもので、地域から仲間と自らがリスクを取りチャレンジし続けることが秋津野の生きる道であると話し,最後に「道徳を忘れた経済は,罪悪である。経済を忘れた道徳は,寝言である」と二宮尊徳の言葉で締めくくった。

休憩時間中には,秋津野直売所きてらで作っているみかんジュース「俺ん家ジュース」と梅ジュース「俺ん家のウメ」の試飲会がおこなわれ,塾生たちは人気商品の魅力を体感した。

後半の討議では,地域の価値を高める農業とは,秋津野ガルテンなどの地域づくり活動を論点に,質疑応答や意見交換がおこなわれた。質疑では事業継承と組織化についてや直売所販売について,地域発信の手法や地域住民からの出資について,経済的成功と地域コミュニティについて,地域ブランドについてなど様々な観点から寄せられ,原氏が丁寧に応答し,全員で意見交換がおこなわれた。